松田先生

唐突に、小学4年生の頃の担任の先生のことを思いだした。松田先生。小柄で美形な女性の先生だった。松田先生の印象はいつも怒っていること。なぜなのかまでは思い出せないが、とにかくいつも怒っている印象だった。
小学4年生の頃の忘れられない事件について書いてみる。ある日、僕とKくんが廊下にいたところ、他のクラスの給食当番の女の子が僕らの斜め後ろで突然転んで、手に持っていたおかずの鍋を廊下にブチまけた。おかずは全滅。「何してんの?」と声をかけたところで左方向から「コツコツコツ」と音が聞こえたので振り向くと、そこには鬼の形相の松田先生が立っていた。そして僕とKくんは強烈な張り手を見舞われた。僕らが悪いことになっていた。僕らのクラスの給食のおかずは勝手に転んだ女の子のクラスに譲渡され、5時間目の授業(午後の一発目の授業)は僕とKくんの公開説教に変更された。激怒しまくる先生に対し、僕とKくんはどうすることもできなかった。時折繰り出される質問に答えることはできたけれど、その質問も僕とKくんが悪いという前提にたつものだったので、僕らには反論の余地は残されておらず、ただただ恐怖の時間を過ごすだけだった。授業終了まであと5分になったころ、友達が助け船を出してくれた。「ゆうすけくんとKくんは悪く無い」と。彼女が勝手に転んだこと、僕らは指一本触れていないことを説明してくれた。それを聞いた先生は僕らに向かって「なんで言わないのよ?」と言ったけれど、そんなこと言える空気じゃ無いでしょうよと。小学生の僕らにはそれは無理な話だよ。先生の笑顔を見て、少し涙が出たことを覚えている。
小学校を卒業してからそれほど時間は経っていなかったと思うけれど、先生と偶然再会する機会があった。たまたま通りかかった他の小学校の校庭からたくさんの大人の叫び声が聞こえたので近くまで寄ってみたところ、通っている中学の先生たちがいた。よく見ると、なぜか小学校の先生たちも見つけることができた。くくりはよくわからなかったけれど、近隣の小学校と中学校の先生方が集まって運動会をしているところだという説明を受けた。校庭に入っていろんな先生に挨拶をしてまわったが、そのなかに松田先生の姿を見つけることもできた。体育座りをして運動会を眺めている先生はとてもおとなしかった。挨拶をすると笑顔でこたえてくれた。優しい雰囲気になっていたのは、僕らがもう卒業しちゃったからなのかな?と思ったのを覚えている。

「同窓会」というと、最終学年の生徒同士が集まることを指すことが多いと思う。小学6年生だったり、中学3年生だったり。4年生の頃の同窓会も開いてくれればいいのにと思った。そもそも同じクラスに誰がいたのかすら覚えていないけれど、あの頃に戻ってみたいと思った。松田先生、今はどこにいてどんなことをしてるんだろ。