入院9日目

胃瘻の手術には10時頃に呼ばれた。病室からストレッチャーで運ばれ、そのまま手術を受け、そのまま病室に帰るんだって。
手術室と呼ぶには簡易な場所で、言うなれば処置室的なところなのかな。そこにリーゼント姿のやけにかっこいい男性が1人と、その周囲に5~6人の男女がいた。あまりのかっこよさに「かっこいいですね」と声をかけそうになるも、バカにしてんのかと思われるのもアレだからやめておいた。で、全員が全員を「先生」と呼び合うもんだからややこしくはあるけれど、観察する限りはそのリーゼントの男性がそのなかで一番偉い先生のようだった。
手術は当然にして仰向けに寝た状態でおこなうんだけど、僕は夜寝るときでさえ仰向けになれないくらいに痰だか何だかが喉に溜まってしまって呼吸が苦しくなるので、ギリギリまで横を向いて寝かせてもらうことにした。

まずは鼻から内視鏡を入れる。これがまた太い。胃に到達するまでが苦行だった。リーゼントはもちろん上手なんだけど、異物が入っていくってのはやっぱりちょっとね。
内視鏡が胃に入ってからはどこに穴をあけるかの場所決めをするみたいで、何人かで話しあっていた。「うん、そこいいんじゃない?」みたいな。そのあたりでなんかちょっとおかしいぞと気付いたのは、今回の手術はリーゼントがすべてをおこなうのではなく、会話をしている先生方のなかでも一番ヒエラルキーの低い先生が執刀するみたいだぞということ。ここは大学病院だからありえることなんだけどマジかよと。しかも会話を聞いてる限りは初めての執刀みたいだし。リーゼントとナンバーツーみたいな先生が逐一指導はしてるんだけど、あくまでも指導であって指示では無い。だからまずはペーペー先生が何らかの動作をおこなうわけだ。で、その動作に誤りがあればその時点で止めると。で、なぜそれがダメなのかの説明を始めると。おいおい、オレは仰向けになってるだけで辛いんだぞ。メスを少し入れたところで「斜めになってる」とリーゼント。向きを変えたら「もう少し深くいれないと切れないぞ」とナンバーツー。呼吸が苦しくて涙する僕。そんな感じで進んでいったわよ。切ったあとは何をやったんだっけ。なんか糸で結んだり引っ張ったりを何度か繰り返してたか。それもリアルに痛くてな。確かに全身麻酔が必要な手術よりは簡単なものだけど、僕からすると、全身麻酔をかけてもらった方が辛く無いからそっちの方がいい。
っつー感じで、リーゼント先生の勉強室みたいな手術をなんとか終えたわけだよ。術後はやっぱり痛いね。何をするにも痛い。一番困るのは咳き込むこと。水を飲むたびにむせるのよ。だから今はなるべく水を飲まないようにしている。全ては点滴で補給。実際に胃瘻を使い始めるのはもうちょい先なのかな?

で、夕方頃に知らん女性の先生が入ってきたので「誰だこんな大変なときに」と思ったら、リンパ浮腫の専門医さんだって。何日も前に看護師さん達が依頼してくれた方がようやく来てくれた。有難い。浮腫自体は連日の放射線治療のおかげなのかだいぶひいているんだけど、顔や首の浮腫みへの対処法は知らないからさ、これからのセルフケアにだいぶ役立つわけだ。胃瘻の痛みで寝たままだったけど、10分くらいかな、そのやり方を教えていただけた。感謝。

昨日の夜かな。唐突に思ったんだけど、僕は「人」に恵まれているなと。今回の件を心配してくれる方々もそうだし、それ以外にこれまでに出あってきた方々もそう。僕は恵まれている。みんなに感謝だな。みんなと神様に感謝。