ブラザー

ブラザーと出会ったのはかれこれ18年ほど前だろうか。僕がまだ某スクールでWebデザインの講師をしていたときに、教務の女性から「次の授業は彼にアシスタントに入ってもらおうと思っています。」と告げられて紹介されたのがブラザーだった。その時点ではブラザーはまだ在学中だったと思う。在学中にも関わらずアシスタントに入ることができたのは、彼に何らかのものがあったからなのだろう。光るものなのか何なのか。
ブラザーが初めてアシスタントに入ってくれた日、授業が終わると同時に、ある生徒さんが「相談があるんですけど…」と僕のもとにやってきた。その日はそのコマが最終の授業だったので、そのままブラザーを含めた3人でご飯を食べに行くことにした。スクールも閉まってしまうし、どこかで食べながら伺えばいいかなと。話が進むなか、ブラザーに「どう思う?」と話を振ってみた。振ってみたら、なぜブラザーがまだ在学中の生徒さんであるにも関わらずアシスタントとして抜擢されたのか、理解できた。それは、相手と真っ直ぐに向き合えること。自分の引き出しのなかにあるものをすべて引っ張り出し、それを言葉に変えて、相手にぶつけることができる。つまりは全力を出せるということ。その時点ではブラザーの生い立ちを知らなかったけど、本気で生きてきた人なんだろうなと思った。

その頃の僕は、日中は某広告代理店内に机をおいて仕事をおこない、夜と週末はスクールで講師をするという日々を送っていた。週7労働だった。休もうと思えば休める状況ではあったけれど、休みがあってもヒマだからという理由で、隙間の無い生活を続けていた。毎日の終わりはスクールで迎えることが多く、喫煙所に行けばブラザーがいて、ふたりでご飯を食べてから帰ることが多かった。僕は僕でヒマだから、ブラザーはブラザーで家に帰りたく無いからと、お互いの利害が一致した結果だった。一緒にいて、気を遣うことは皆無だった。お互いに水瓶座のAB型だからなのかは知らないけれど。

あれから18年。ブラザーはいま、田町の駅から徒歩5~6分ほどのところで焼鳥を焼いている。焼鳥屋とは言っても煙モクモクの庶民的なものでは無く、ワインと日本酒のおいしい、一見さんにとってはなかなか敷居が高く見えるであろうお店だ(一見さんお断りでは無い)。開店して2年半ほど経つだろうか。まだ新しいお店にも関わらず、既にミシュランのビブグルマンを2年連続で獲得している。
朝から深夜まで毎日とても忙しそうにしているけれど、ここ数年、年に2度ほどだろうか、お店がお休みである日曜日に開催されるプロレスにだけは付き合ってくれる。先日の日曜日も一緒にプロレスを見に行って、帰りはブラザーお勧めの中華料理店に入った。僕の妻がトイレに立ち、僕とブラザーのふたりきりになったテーブルで、「こういうの、久しぶりだね。」とブラザーが言った。僕はラストオーダーの際に駆け込みで注文をした冷やし担々麺を食べながら「うん。」とだけ言った。でも本当は、心の中では「またいつでも来ようよ。」と思っていた。でも、なんだか少し恥ずかしくてな。
いつの日か、この日記をブラザーが見つけることだろう。その時に伝われば、それでいいかなと。ブラザーとの関係は、いつまでも続いていくと思うから。