ソフトクリーム

小学生の頃、英語の塾に通っていた。自宅からは距離があったので、バスに乗って通っていた。
ある日、いつものように塾を終えバス停に向かおうとしたところで、なぜかバスに乗って帰りたく無いと思えた。歩いて帰りたいと思えた。何年通っていただろう、そんなことを思うのは初めてだった。少々長い距離だったけれど、歩いて家まで帰った。
いつもと比べて2~30分ほど遅れて家についたと思う。台所では母親が夕飯の準備をしていた。「歩いて帰って来ちゃった!」と言うと、母親は怪訝な顔をしながら「Aコープの前でお姉ちゃんと一緒に待ってたんだよ。」と言った。Aコープとは英語の塾からバス停までの間にあるスーパーで、その日は父親とともに車でAコープに買い物に行ったため、母親と姉とで僕が通りかかるのを待っていたらしい。ソフトクリームを持って。僕が歩いて帰ったのはレアなことだったけど、父、母、姉の3人でAコープに買い物に行くというのもかなりレアなことだった。だってそこは自宅から近くは無いから。

昨晩、仕事帰りに地元の駅についたとき、いつもの道で帰りたく無いなと思えた。違うルートを歩いて帰りたくなった。こんなことを思うのはあの日以来だなと思えた。念のため、携帯から妻にメッセージを送った。「家にいるよね?」と。妻は家にいた。
家につくと「どうしたの?」と言われた。家にいるかどうかなんてそれまで聞いたことが無かったから。僕はあの日の話をして、「もしかしたら」があったら嫌だなと思って連絡したんだよと伝えた。
夕飯を食べ終え、妻が昨日買ってきてくれたというアイスクリームを食べようと思い冷凍庫を開けた。そこにはソフトクリームが入っていた。なんだろう、あの日のリベンジなのかなと思えた。37~8年の時を超えてやってきたソフトクリームなのかなと。長い時を超え、ようやく愛を受け取れたような気がした。あの日の母親から、そして今という時を共に過ごしている妻とのふたりから。