会話

我が子の寝顔を見ていると思い出すことがある。それは僕がこの世に生まれてからの最初の記憶のこと。

季節は冬の終わりか春頃だったと思う。僕は両親の部屋に敷いた布団で寝かされていた。そこは窓際で、レースのカーテンを通して陽の光が柔らかく差し込んでいて、とても心地がよかった。
母親と姉が笑顔で僕の顔を覗きこんでいる。とてもにこにこしている。会話を聞く限り、ふたりは少しの間部屋を離れるらしい。その前に、僕の身体が冷えないようにと僕の身体にタオルケットをかけてくれた。タオルケットをかけられた僕は、とたんに身体が熱くなるのを感じた。これはたまらん。すかさず「暑いよ!」と言おうとしたが、言葉が出ない。なにせまだ喋れないもので「あー」とか「うー」としか出ない。このまま部屋を出て行かれるとたまらんと思い、どうにか伝えねばと思った結果、泣いて知らせるという手段が取られることに。泣こうと思ったのでは無く、自然と泣いた。泣くとふたりは振り返り、なぜ僕が泣いているのかを探りだした。おむつじゃ無い。では何だろうと。母がタオルケットをどかしてくれたところで僕は泣き止み、そのまま寝た。

これ、とても鮮明な映像として僕の脳裏に残っているので僕が持っている最古の記憶だと思っているのだけれど、もしかすると夢の可能性もあるかもしれないね。で、記憶でも夢でもどちらでもいいんだけど、我が子の顔を見ていると、もしかすると僕が経験した(と思っている)あんなことを、いまこの子も経験している真っ最中なのかもしれないなってことが頭に浮かぶ。「おなかすいた」とか「おしっこ出ちゃった」とか、言葉にはできないものの、僕たちに一生懸命伝えようとしているのかもしれないな、なんて。
ホントのところがどうなのかを知る術は無いけれど、とにかくは、僕はこの子と会話ができる日が来ることを楽しみにしている。この子といろんなことを話したい。真面目な話も、どうでもいいことも。それまでおじさん頑張らないとな。