父の想い

先日、妻との会話のなかで、「祐輔の家族はみんな運動神経がいいもんね。」のようなことを言われた。姉はソフトボールで関東大会に出ていたようなうっすらとした記憶があり、母はこれまたソフトボールで全国大会準優勝(補欠)を果たしており、さらには中学生の頃にハードルで県の記録を持っていた。なので「父ちゃん以外は…」と答えたけれど、その言葉を発している最中に、小学生の頃に見た光景が頭の中に蘇った。

晴れた日の週末だったかな。僕は少年野球をやっていたので週末はいつも練習やら試合やらにでかけていたけれど、その日はなぜか家にいた。母親が僕に「小学校でお父さんの試合やってるから見てきたら?」と話しかけてきた。あまり気乗りはしなかったけれど、やることも無いので歩いて一人で見に行った。
父は町内のソフトボールのチームに所属していた。所属はしているものの、週末はいつも家にいた。家でゴロゴロしているイメージしか無かった。朝起きれば既に会社に向かっていて、夜は寝る前に会った記憶はほとんど無い。仕事が忙しかったんだと思う。「お父さんは4番だから」と言っていたけれど、いつも寝てばかりで試合に出てないのになと思っていた。

小学校のグラウンドでは試合の真っ最中だった。近所のおじさんたちがたくさんいて、「おお、祐輔~。」と声をかけてくれた。僕はバックネットから少し離れたところに立って試合を見ていた。
父に打席がまわってきた。ひざ元に来たボールをすくい上げるようにスイングすると、ボールは左中間に高々と舞い上がり、レフト後方にあるプレハブ小屋の屋根に当たって跳ね返ってきた。ベンチは大盛り上がりで父を出迎えた。僕は最後まで試合を見ることなく家に帰った。

その日の夜だったかもっと後のことだったかは覚えていないけれど、その日のことを「祐輔の前でホームランが打てて良かった」と言っていたと母から聞かされた。それを聞いて、お父さんは僕のことを好きでいてくれてるんだなと思った。父は口数が多い人では無いし、ましてや感情を言葉に乗せることも無い(記憶に無い)。なので母親から聞いたその言葉がやけに印象に残っている。もちろんそれだけでは無いけれど、それは本当に、心に残っている。